南極海の海氷は地球のエネルギー収支の調整に重要な役割を果たしている
フィンランドとノルウェーの科学者たちは、数十年にわたる衛星観測データを用いて、北極と南極の雪と氷の変化による温暖化効果を計算しました。
2000年から2015年にかけての南極海氷の拡大は、北極地域の融解と釣り合って冷却効果を生み出していましたが、2016年から2018年にかけての南極海氷の大幅な減少により、その傾向が完全に逆転しました。
これらの結果は、これまであまり知られていませんでしたが、南極海氷が地球のエネルギー収支の調節に重要な役割を果たしていることを浮き彫りにしました。
地球の雪や氷の覆いが溶けると、アルベドと呼ばれる地球表面の反射率が低下します。
アルベドが減少すると、太陽光が宇宙に反射される割合が減少します。
その結果、より多くの太陽放射エネルギーが地球上に残り、気候システムを暖めることになります。
同様に、雪や氷の量が増えると反射率が高くなり、冷却効果が得られます。
このメカニズムをアイス・アルベド・フィードバックと呼びます。
アイス・アルベド・フィードバックの規模は、太陽光の量や曇り具合などによって決まります。
Nature Geoscience誌に掲載された新しい研究では、フィンランド気象研究所とノルウェー生物経済研究所の科学者たちが、北極と南極の両地域における反射率の変化による暖めと冷却の効果を計算しました。
研究期間は1982年から2018年までで、衛星観測に基づいて計算を行いました。
極地のアルベド変化が地球のエネルギー収支を変える
その結果、1990年代以降の北極地域の雪氷の融解が温暖化に影響しているというこれまでの知見が確認されました。
また、今回の研究では、南極地域で起こっている2つの大きく異なる動きが説明されています。
2000年から2015年の間、南極の海氷域の拡大は冷却効果を生み、北極の融解による温暖化効果とほぼ釣り合っていました。
しかし、2016年には南極海氷域の減少が顕著になり、それまでの15年間で増加した冷却効果が完全に逆転しました。
フィンランド気象研究所の研究教授で、本研究の原著者であるAku Riihelä氏は、「今回の結果は、極地における放射エネルギー収支の調整役として、南極の海氷被覆がこれまであまり知られていなかった重要な役割を果たしていることを明らかにするものです。2016年の海氷被覆の劇的な変化は、海氷被覆の大きな変化が急速に起こりうることも示しています。そのため、今後、南極と海氷のモニタリングや関連モデルの開発に、より一層の注意を払う必要があります。」と述べています。
南極の海氷の減少は、人為的な地球温暖化に拍車をかける可能性がある
1992年から2018年の間に、極域の反射率の変化は、平均して1平方メートルあたり+0.08ワットの地球温暖化効果をもたらしました。
これは、1992年以降の年間の人為的な二酸化炭素の排出による温暖化効果の約10%に相当します。
もし、南極の海氷が回復しなければ、この割合は増加する可能性があります。
「南極海の海氷の大幅な減少が回復できるかどうかという問題は、地球の放射エネルギーバランスに大きな影響を与えることを考えると重要です。南極は長い間、地球システムの冷蔵庫のような役割を果たしてきました。 南極の海氷が修復できなくなると、残された排出権予算が削られ、野心的な緩和目標の達成がますます困難になります。と本研究の共著者の一人であるノルウェー生物経済研究所のラRyan Bright研究教授は述べています。
しかし、最近の研究では、南極の海氷が部分的に回復していることが明らかになっています。
「これは良いニュースと捉えられるかもしれませんが、その原因となったメカニズムを本当に理解するまでは、2016年から2018年にかけての反転を異常なものとして片付けるわけにはいきません。」とBright氏は言います。
Published by Norwegian Institute of Bioeconomy Research. Aku Riihelä et al, Recent strengthening of snow and ice albedo feedback driven by Antarctic sea-ice loss, Nature Geoscience (2021). DOI: 10.1038/s41561-021-00841-x